驚くべき話に魅せられてしまった。眼の前に浮かび出すその英雄は、無数の人民を後ろに従えていた。人民らは敬愛の叫びを発していて、彼の合図一つで群がりたって敵に飛びかかってゆき、敵はいつも敗走した。それはまったくお伽噺《とぎばなし》と同じだった。祖父は話を面白くするために、余計なものまで少しつけ加えた。その英雄はスペインを征服していた。許すことのできないイギリスをもほとんど征服していた。
 時とすると老クラフトは、その熱烈な物語の中で、この英雄にたいする憤慨の語を交えることもあった。愛国の精神が彼のうちに目覚めていた。そしておそらく、イエナの戦《いくさ》の話よりも、皇帝の敗北の条《くだり》においていっそうそうであったろう。彼は言葉を途切らして、ライン河に拳固《げんこ》をさしつけ、軽侮の様子で唾《つば》を吐き、上品な罵言《ばげん》――他の下等な罵言を吐くほど彼は自分を卑しくしなかった――を発した。悪人、猛獣、不徳漢、などとその英雄を呼んだ。そしてかかる言葉がもし、子供の精神の中に正義の観念をうち立てるのを目的としていたのなら、それは的はずれのものであったというべきである。なぜなら、子供の論理は
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