《ききて》が胸を躍らせる時分に少しじらしてやることを、上手《じょうず》なやり方と信じていた。彼は言葉を途切らし、息苦しそうなふうを装い、騒々しく鼻をかんだ。そして子供が、待遠しさのあまり息詰った声で、「それから、お祖父《じい》さん、」と尋ねると、彼の心は有頂天《うちょうてん》になった。
 その後、クリストフはだんだん大きくなって、ついに祖父の手段を見破るようになった。すると彼はもう意地悪くも、話の続きにたいして冷淡なふうを装うことを努めた。あわれな老人はそれに困らされた。――しかしまだ今のところでは、彼はまったく話手の自由になっていた。そして彼の血は、劇的な部分を聞くととくに躍りたった。もうなんという人のことやら、またそれらの手柄がどこでいつなされたのやら、あるいは祖父が果してアルミニュスを知っていたかどうか、レギュリュスというのはこの前の日曜に教会堂で見かけた人――その訳は神のみぞ知る――ではないかどうか、そんなことは彼には分らなくなった。彼の心は、また老人の心は、勇ましい手柄話になると、あたかもそれをしたのは自分たちであるかのように、自慢の念にふくれ上がった。なぜなら、老人も子供も
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