ともに等しく赤ん坊だったから。
祖父が勇壮な話の中途に、心に大切にしまってる議論の一つをはさむ時には、クリストフはあまり嬉《うれ》しくなかった。それはおもに道徳上の意見であって、正しくはあるがやや陳腐《ちんぷ》な一つの思想にたいていつづめられるようなものだった、たとえば、「温和は過激に優《まさ》る、」――「名誉は生命よりも貴し、」――「邪悪なるは善良なるに如《し》かず、」などと。――そしてただ、それよりもずっと錯雑してるだけだった。祖父は自分の幼い聴手の批評を恐れてはいなかった。そしていつも心ゆくかぎりおおげさな調子で口をきいた。少しもはばからずに、同じ文句をくり返したり、中途で言葉を途切らしたり、また議論の途中でまごつく時には、思想の破綻《はたん》をふさごうとして、なんでも頭に浮かぶことをでたらめに言ったりした。そして言葉をいっそう力強くなすためには、その意味と矛盾する身振りをさえ添えた。子供はごくかしこまって耳を傾けていた。そして、祖父は非常に雄弁だが多少退屈だと、彼は考えていた。
二人とも好んで、ヨーロッパを征服したあのコルシカの偉人に関する伝説的な物語に、何度も立ちもどって
前へ
次へ
全221ページ中37ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング