うことをして遊んでる最中に、不思議な夢心地とまったくの忘却とに陥る瞬間があった。周囲のすべてのものは消え失せてしまって、もう自分が何をしているかをも知らず、自分自身をも忘れはてた。よくそんなことが不意に彼を襲った。歩いてる時、階段を上りかけてる時、突然空虚が開けてきた。彼はもう何にも考えていないようだった。そして我に返ってみると、前と同じ場所に、薄暗い階段の中ほどに、自分を見出して呆然《ぼうぜん》としてしまった。それはあたかも、一つの生涯を過してしまったようなものだった――階段の二、三段ばかりの場所で。

 祖父はしばしば夕方の散歩に彼を連れていった。子供は祖父に手を引かれて、小股《こまた》に足を早めながら並んで歩いた。彼らはいつも、快い強い匂いのする耕作地を横ぎって、小道を通っていった。蟋蟀《こおろぎ》が鳴いていた。道にはだかって横顔を見せてる大型の烏《からす》が、遠くから二人の来るのを眺めていたが、間近になると重々しく飛び去った。
 祖父はよく咳《せき》払いをした。クリストフはその意味をよく知っていた。老人は何か話を聞かせたくてたまらなかったが、まず子供の方からせがんでもらいたかっ
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