っと起こるだろうと思い込んでいた。彼は一匹の蟋蟀《こおろぎ》を捜し出して、それを馬にしようとした。蟋蟀の背中にそっと杖をあてて、一定の呪文《じゅもん》を唱えた。虫は逃げ出した。彼はその行く手をさえぎった。しばらくすると、彼は虫のそばにはらばいに寝転んで、じっと眺めた。もう魔法使の役目を忘れてしまって、そのあわれな虫を仰向《あおむけ》にひっくり返しては、それがもがき苦しむのに笑い興じた。
 彼は自分の魔法杖に古糸を付けることを考えだした。彼は真面目《まじめ》くさってそれを河の中に投げ込み、魚が食いに来るのを待った。魚というものは普通|餌《えさ》も鈎《かぎ》もない糸を食うものではないということは、彼もよく知っていたけれど、しかし一度くらいは、自分のために、魚が例外なことをするかもしれないと思っていた。そしてすっかり自惚《うぬぼ》れのあまり、ついに溝板《みぞいた》の割目から杖を差入れて、往来の中で釣《つり》をするまでになった。心を躍らせて時々その杖を引上げながら、こんどは糸が前より重いと考えたり、祖父から聞いた話にあったように、何かの宝を引き上げるのではないかと想像したりした……。
 そうい
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