。クリストフは馬に乗って、断崖《だんがい》を飛び越えた。時とすると馬が足を滑らした。すると馬上の騎士は、溝の底に落ち込んで、よごれた手や擦《す》りむいた膝頭をきまり悪げに眺めた。杖が小さい時には、クリストフは管弦楽団の長となった。彼は指揮者でありまた楽員であった。指揮し、また歌った。それから彼は、小さな緑の頭が風に動いてる藪に向かってお辞儀をした。
 彼はまた魔法使であった。よく空を眺めながら大手を振って、大股《おおまた》に野の中を歩いた。彼は雲に命令を下した。――「右へ行け。」――しかし雲は左へ動いていた。すると彼は雲をののしって、命令を繰返した。自分の命令に従う小さなのでもありはすまいかと思って、胸を躍《おど》らせながら横目で窺《うかが》った。しかし雲は平然と左の方へ飛びつづけた。彼は足をふみ鳴らし、杖を振り上げて雲をおどかし、左へ行けと怒って命令をかけた。するとこんどは、雲はまったくその命令に服した。彼は自分の力に喜んで得意になった。お伽噺《とぎばなし》で聞いたように、金色の馬車になれと命じながら花にさわった。そして実際にはそういうことは起こらなかったけれど、少し辛抱していればき
前へ 次へ
全221ページ中32ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング