し》の洞窟《どうくつ》、そんなものさえもうなくてすむ。自分の身体だけでたくさんだ。身体はなんという興味の泉だろう! 彼は自分の爪《つめ》を眺めて大笑いしながら、いく時間も過す。爪はそれぞれ違った顔付をしていて、知ってる人たちに似かよっている。彼はそれらを、いっしょに話さしたり、踊らしたり、殴《なぐ》り合わしたりする。――それからこんどは身体の他の部分!……彼は自分に属するものを残らず検査しつづける。なんとたくさんの驚くべきものがあることだろう! 不思議なものが実にたくさんある。彼は珍らしそうにそれらのものに見とれる。
 時々、そういうところを人に見つけられて、彼は手荒く抱きとられた。

 時おり彼は、母親が向うを向いてる隙《すき》に乗じて、家から外にぬけ出す。初めのうちは、後から追いかけられてつかまってしまう。後になると、あまり遠くへさえ行かなければ、一人で出かけるままに放っておかれる。彼の家は町はずれにある。すぐそばから野原がつづいている。彼は窓が見える間は、時々片足で飛びながら、ちょこちょこと足をふみしめて、ちっとも立止まらないで歩いてゆく。けれども、道の曲り角を通りすぎると、藪《
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