響きのままにみずからもうとうとしてるかと思われる。あるいは噛《か》みつこうとて狂い回ってる野獣のように、いらだち咆哮《ほうこう》する。その怒号が静まると、こんどは限りなくやさしい囁《ささや》き、銀の音色、澄み切った鈴の音のようなもの、子供の笑い声のようなもの、やさしい歌声、踊り舞う音楽。決して眠ることのない大いなる母性の声! その声は子供を揺《ゆ》する、彼より以前に存在したあらゆる時代の人々を、その生から死に至るまで、幾世紀の間も揺すってやったがように。そして子供の思想の中にはいり込み、その夢の中に沁《し》み込み、澱《よど》みなき諧調《かいちょう》のマントで彼をくるんでやる。やがて彼がラインの河水に浴する水のほとりの小さな墓地に横たわる時も、そのマントはなお彼をくるんでくれるであろう……。
 鐘の音……。もはや曙《あけぼの》! 鐘の音は、憂わしげに、多少悲しげに、親しく、静かに、たがいに響き合う。そのゆるやかな声音につれて浮かび上がってくる、夢の群が、過去の様々の夢が、消え失せた人々の慾望や希望や悔恨が。子供はそれらの人々を少しも知らなかったけれども、それでもなお昔は彼らにほかならなか
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