が、一生の河の流れから現われ始める。最初は、眼にもとまらぬ狭い小島で、水面とすれすれになってる巌《いわ》である。それらのものの周囲には、夜が明けゆく薄ら明りの中に、静かに大きい水脈がずっとひろがってゆく。それからこんどは、金色の日の光を浴びた新しい小島が現われる。
 魂の深淵《しんえん》から、不思議に明確な種々の形が湧き出てくる。単調な力強い波動をなしながら、永遠に同じ姿でくり返される無辺際の日の中に、あるいは歓《よろこ》びの顔をしあるいは悲しみの顔をして、たがいに手をつなぎ合してる幾多の日の丸い群が、浮び出してくる。しかしその鎖の鐶《かん》はたえず切れて、思い出は週や月……をまたぎ越してたがいにつながり合う。
 河……鐘……。思い出の届くかぎり遠くに――時の遠い曠野《こうや》の中に、生涯のいかなる時代にもせよ――それらの奥深い親しい声は、常に歌っている……。
 夜――うとうとと彼が眠る夜……。蒼《あお》ざめた明るみが窓ガラスをほの白く染めている……。河は音をたてている。その声は、寂寞の中に力強く高まってくる。あらゆる存在の上に働きかける。あるいはそれらのものの眠りを和らげ、また河波の
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