やむにやまれぬその欲望、それは昼と夜とにもたらされながら、かえってみずから昼と夜とを招き出すかと思われるまでに、規則正しく波動する。
 生命の振子は重々しく動いている。全存在はそのゆるやかな波動のうちにのみ込まれる。その他は皆夢にすぎない、うごめく奇形な夢の断片、偶然に舞い立つ原子の埃《ほこり》、人を笑わせあるいは恐れさせつつ過ぎてゆく眩《めまぐる》しい旋風にすぎない。喧騒《けんそう》、揺らめく影、奇怪な形、苦悩、恐怖、哄笑《こうしょう》、夢、種々の夢……。――すべて皆夢にすぎない……。――そしてその混沌《こんとん》の中には、彼に微笑《ほほえ》みかくる親しい眼の光、母の身体から、乳に脹《は》れた乳房から、彼の身体のうちに伝わりわたる喜悦の波、彼のうちにあって自然に積り太ってゆく力、その小さな子供の体内に閉じこめられて轟《とどろ》き出す湧きたった大洋。かかる幼児の内部を読み分けうる者は、影の中に埋もれたる幾多の世界を、しだいに形を具えゆく幾多の星雲を、形成中の全宇宙を……そこに見出すであろう。幼児の存在には限界がない。彼は存在するすべてのものである……。

 月は過ぎてゆく……。記憶の島
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