った、なぜなら、彼は彼らのうちに存在していたから、また彼らは彼のうちに甦《よみがえ》ってきているから。幾世紀もの思い出が、今鐘の奏する音楽の中に震えている。数多《あまた》の悲しみと数多の歓び!――そして、室の奥からでも、その鐘の音を聞いていると、軽い空気の中を流れゆく美しい音波や、自由な鳥や、風の温かい息吹《いぶ》きなどが、すぐ眼の前を通りすぎるがように思われる。青い空の一部が窓に微笑《ほほえ》みかけている。一条の日の光が、窓掛から滑り込んで寝床の上に落ちている。子供が見慣れた小さな世界、毎朝眼を覚しながら寝床から眺めるすべてのもの、自分のものにしようとして、多くの努力を払って、それと知り始め名づけ始めたすべてのもの――彼の王国が輝き出す。皆が食事をするテーブル、彼が隠れて遊ぶ戸棚《とだな》、彼がはい回る菱《ひし》形の床石《ゆかいし》、おかしな話や恐ろしい話を彼にしてくれる種々な皺《しわ》のある壁紙、彼だけにしか分らない片言《かたこと》をしゃべる掛時計。なんとたくさんのものが室の中にあることだろう! 彼はそれらのすべてを知りつくしてはいない。毎日彼は、自分に属してるその宇宙に探険に出か
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