ら死んでもいい! 彼は尋ねた。
「お祖父《じい》さん、あれをこしらえたのはなんという人なの?」
 祖父はフランソア・マリー・ハスレルのことを話してきかした。ドイツの若い芸術家で、ベルリンに住んでいて、昔祖父と知り合いだった。クリストフは耳を澄してきいていた。突然彼は言った。
「そしてお祖父さんは?」
 老人は身を震わした。
「なんだい?」と彼は尋ねた。
「お祖父さんもまた、あんなものをこしらえたことがあるの?」
「あるともさ。」と老人は気むずかしい声で言った。
 そして彼は口をつぐんだ。五、六歩してから深い溜息《ためいき》をもらした。それこそ生涯の悲しみの一つだった。彼は常に芝居のために書きたいと望んでいたが、いつも霊感《インスピレーション》に裏切られたのだった。紙挾《かみばさ》みにはたえず、自己流の一幕物か二幕物がはいっていた。しかしその価値についてはあまり自信がなくて、かつて判断に供するの勇気がなかった。
 彼らはそのままもう一言も口をきかないで、家に帰りついた。二人とも眠れなかった。老人は悲しんでいた。みずから慰めるために聖書を取上げた。――クリストフは寝床の中で、その晩の出来事
前へ 次へ
全221ページ中152ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング