。そこは彼の得意の壇場《だんじょう》だった。彼は音楽の権威だったから人々から謹聴された。彼はそれに乗じていた。図に乗ってるともいえるほどだった。クリストフの方は何にも聞くことができなかった。彼は芝居が待ち遠しくてたまらなかったし、宮殿のように思われる広間の光景に威圧され、恐ろしいほど込み合ってる看客に威圧されていた。皆の視線が自分に向けられてるように思って、後ろをふり返るだけの勇気もなかった。小さな帽子を膝《ひざ》の間にはさんでびくびくしながら、眼を丸くして不思議な幕を見つめていた。
 ついに柝《き》の音が三つ響いた。祖父は鼻をかんで、ポケットから台本《リヴレット》を取出した。彼はいつもその台本を丹念にたどることを欠かさないで、時としては舞台で演ぜられてることを忘れるくらいだったのである。管弦楽《オーケストラ》が始まった。最初の和音を聞くや否や、クリストフは心が落着くのを感じた。その音響の世界では、自分の家のような気がした。それから先はもう、舞台にどんな不思議なことが起ころうと、すべて自然であるように思われた。
 幕が上がって、厚紙の樹木やほんとうらしくない人物などが現われた。子供は感
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