#「彼」に傍点]のようだったら、どんなに愉快だろう! 牧場や、柳の枝や、光ってる小石や、さらさらした砂や、そういうものの間を分けて走り、何物にも気をもまず、何物にも煩わされず、まったくの自由である、そうなったらどんなに愉快だろう!……。
子供は貪《むさぼ》るように眺めまた聴いていた。河に運ばれてるような気がした……。眼をつぶると、青や緑や黄や赤などの色が見えてき、過ぎゆく大きな影や、一面に降り注ぐ日の光が、見えてくる。……映像はしだいにはっきりとなる。それ、広い平野、葦《あし》の茂み、新鮮な草や薄荷《はっか》の匂いがする微風に波打っている畑の作物。至るところに花が咲いている、矢車草、罌粟《けし》、菫《すみれ》。なんと美しいことだろう! なんと快い空気だろう! 密生した柔かな草の中に寝転んだら、さぞ気持がいいだろう!
……祝いの日に、ライン産の葡萄酒《ぶどうしゅ》を少しばかり、大きな杯に父からついでもらった時のように、クリストフは心|嬉《うれ》しくて、少しぼーっとした心地になってくる……。――河は流れてゆく……。景色が変わる……。こんどは、水の上に覗《のぞ》き出た木立。歯形に切れてる
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