木の葉は、小さな手のような形をして、河の中に浸り動き裏返っている。木立の間には、一つの村落が河に映っている。流れに洗われてる白壁の上には、墓地の糸杉や十字架が見えている。……次には、種々な岩、立ち並んだ山、傾斜地の葡萄畑、小さな樅《もみ》の林、荒廃した城《ブルク》……。それからまた、平野、作物、小鳥、日の光……。
緑色の満々たる河水は、ただ一つの思想のように一体をなして、波も立てず、ほとんど皺《しわ》も寄せず、脂《あぶら》ぎって光ってる水形模様を見せながら、流れつづける。クリストフはもうそれを眼には見ない。彼はその音をなおよく聞くために、眼をすっかり閉じている。たえざる水音は彼の心を満たし、彼に眩暈《めまい》を与える。その覆《おお》いかぶさってくる悠久《ゆうきゅう》な夢に彼は吸い寄せられる。河水の騒々しい基調の上に、急調の律動《リズム》が激しい愉悦をもって飛び出してくる。そしてそれらの節奏《リズム》のまにまに、棚《たな》に葡萄蔓《ぶどうづる》がよじ上るように、種々の音楽が高まってくる、銀音の鍵盤から出る白銀の琶音《アルペジオ》、悩ましいヴァイオリンの響き、円《まろ》やかな音調のビロー
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