ら覗《のぞ》くと、河の真上になっていて、揺らめく空中にいるがようだった。クリストフは一段一段と階段を降りてゆく時、いつも欠かさずその河を眺めたのだった。しかしまだかつて、その日のように河を見たことはなかった。悲痛は感覚を鋭利にする。色|褪《あ》せた記憶の跡が涙に洗われた後には、すべてが眼の中によりよく刻み込まれるらしい。子供には河が生物のように見えた――不可解な生物、しかも彼が知ってる何よりもいく倍となく力強い生物! クリストフはなおよく見るために身を乗り出した。窓ガラスの上に口をあて鼻を押しつけた。彼[#「彼」に傍点]はどこへ行こうとしているのか? 彼[#「彼」に傍点]は何を望んでいるのか? 彼[#「彼」に傍点]は自分の道を信じきってるような様子である。……何物も彼[#「彼」に傍点]を止めることはできない。昼も夜もいかなる時でも、雨が降ろうと日が照ろうと、家の中に喜びがあろうと悲しみがあろうと、彼[#「彼」に傍点]は流れつづけている。すべて何事も彼[#「彼」に傍点]にとってはどうでもいいことらしい。彼[#「彼」に傍点]はかつて苦しんだことがなく、常に自分の力を楽しんでいるらしい。彼[
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