たれたくないんだって、打たれたく……。」
拳固《げんこ》の霰《あられ》が降った。クリストフはすすり泣きの間から絶叫していた。
「それから……音楽はいやだ!……音楽は嫌《きら》いだ!……」
彼は席から滑り落ちた。メルキオルは手荒く彼をまたすわり直させ、手首を掴《つか》んで鍵盤にぶっつけた。彼は叫んでいた。
「ひくんだ!」
クリストフは叫んでいた。
「いや、いや、弾《ひ》くもんか!」
メルキオルは諦《あきら》めなければならなかった。彼はクリストフを扉のところへ引張ってゆきながら、一か所も間違えずに練習をしてしまわないうちは、一日じゅう、一月じゅう、食物を与えないと言った。後ろから彼を蹴《け》り出して、ばたりと扉を閉めきった。
クリストフは階段の中途にたたずんだ。きたない薄暗い階段で、踏段は虫に食われていた。軒窓のガラスの壊れたところから、風が吹き込んでいた。湿気で壁がじめじめしていた。クリストフは脂《あぶら》じみた踏段に腰を降ろした。胸の中は、憤怒と激情とで心臓がどきついていた。小声で彼は父をののしった。
「畜生、まったくそうだ! 畜生!……下司《げす》野郎……人非人《にんぴにん
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