、そこにいる人たちのうちでほんとうに音楽を感じているのは、その小さな子供一人きりだと言われたら、協奏曲《コンセルト》をこね回してる善良な人々はさぞ驚いたであろう。
 もし彼に静かにしていてもらいたいのなら、なぜ人を歩かせるような曲を演奏してきかせたのか。それらのページのうちには、悍馬《かんば》、剣、戦《いくさ》の叫び、勝利の驕慢《きょうまん》、などが含まれていたのである。しかも彼らは、彼にも同じように、頭を振ったり足拍子を取ったりするだけでいてもらいたかったのである。それならばただ、のどかな夢幻の曲か、いくらしゃべってもなんの意味をも語らない饒舌《じょうぜつ》なページかを、演奏してやりさえすればよかったのだ。たとえば、ゴルトマルクの曲でもよかった。老時計商は先刻|歓《よろこ》ばしい笑顔をして、その楽曲のことを言った。「実にいい。荒っぽいところがない。どの角《かど》も丸くなってる……。」その時には子供はごく静かだった。うとうとしていた。何が弾奏されてるか知らなかった。しまいにはもう何も聞えなくなった。しかしいい気持だった。手足がけだるくなって、うつらうつら夢みていた。
 彼の夢は筋の通っ
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