。ただそれを聞いていると、あるいはうとうととしたり、あるいは眼を覚ましたりした。いずれの場合にも不快な感じは受けなかった。彼はみずから気づきはしなかったが、彼を興奮させるのはたいていいつもいい音楽であった。だれにも見られっこはないと安心していたので、顔じゅうで種々な渋面《しかめつら》をした。鼻に皺《しわ》を寄せ、歯をくいしばり、舌を出し、怒った眼付や悲しい眼付をし、喧嘩《けんか》腰の元気な様子で腕や足を動かし、また、歩き出したくなり、殴り回りたくなり、世界を粉|微塵《みじん》にしてやりたくなった。そしてあまり暴れていたので、ついにピアノ越しに覗《のぞ》き込まれて、怒鳴りつけられた。「おい、お前気違いか。ピアノからどけ、手を離せ。耳を引張るぞ!」――それで彼は当惑しまた癪《しゃく》にさわった。なぜ自分の楽しみを邪魔するのか。何も悪いことをしたわけではない。いつもいじめつけられてばかりいなければならないのか! 父も小言の仲間にはいった。彼は騒がしい真似《まね》をするといって叱《しか》られ、音楽を好かないのだといって叱られた。しまいには彼自身も音楽を好かないのだと思い込んでしまった。――もし
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