けんばん》の高さになる。それだけでもう十分だ。なぜ彼は一人になるのを待つのか? あまり大きな音さえたてなければ、だれもひくのをとがめはしないではないか。しかし彼は人前を恥ずかしがっている。思い切ってやれない。それにまた、皆が話をしたり動き回ったりする。それが楽しみをそこなう。一人きりの時に限るのである!……クリストフは息をこらす、なおいっそうあたりを静かにするためである。そしてまた、大砲でも打とうとしてるかのように多少興奮してるからである。鍵《キイ》に指先をあてると、胸がどきどきする。時々、指を半ば埋めた後にまたはずして、他の鍵の上に置く。前のよりこんどのからどんなものが出て来るか、わかりはしない。突然音が高まる。深い音、鋭い音、響く音、唸《うな》る音。それらの音が一つ一つかすかになって消えてゆくのを、彼は長く聴《き》きとれる。それらは鐘の音のように揺いでいる、野の中にいる人の耳に、風がもたらしてはまた一つ一つ遠くへ吹き送る鐘の音のように。次に耳を傾けると、虫の羽音のような、入り交って渦《うず》を巻いてる他の種々な声が、遠くに聞える。人を呼びかけるようである、遠くへ誘ってゆくようである
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