……遠くへ……ますます遠くへ、神秘な奥深いところへ。そして声はそこにはいり込んで、深くもぐり込む……もう消えてしまった!……いや、まだささやいている……小さな羽ばたき……。なんという不思議なことであろう。精霊のようである。精霊がこのとおり素直にしてるとは、この古い箱の中に囚《とら》われとなってるとは、まったく訳がわからないことだ!
しかし最も面白いのは、同時に二本の指を二つの鍵《キイ》にのせる時である。どんなことが起こるか前から決してわかりはしない。時とすると、二人の精霊が敵《かたき》同士のこともある。彼らは怒りたち、殴り合い、憎み合い、癪《しゃく》にさわったように唸《うな》りだす。たがいの声が高まる。あるいは憤って、あるいはやさしく、叫びたてる。クリストフはそのやり方が大好きである。縛られた怪物が、鎖をかみ牢屋《ろうや》の壁にぶっつかってるようである。怪物は今にも壁を破って外に飛び出そうとしてるかと思われる。物語の書物に書かれてる怪物のようである、ソロモンの印璽《いんじ》の下にアラビアの手箱の中に閉じ込められてる悪鬼のようである。――またあるものは媚《こ》びてくる。騙《だま》し賺《
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