じますが……」と、彼はヘルマンに言った。
「どちらでも……」と、ヘルマンは答えた。
 シェカリンスキイはポケットからたくさんの小切手を引き出して即座に支払うと、ヘルマンは自分の勝った金を取り上げて、テーブルを退いた。ナルモヴがまだ茫然としている間に、彼はレモネードを一杯飲んで、家へ帰ってしまった。
 翌日の晩、ヘルマンは再びシェカリンスキイの家へ出かけた。主人公はあたかも切り札を配っていたところであったので、ヘルマンはテーブルの方へ進んで行くと、勝負をしていた人たちは直《ただ》ちに彼のために場所をあけた。シェカリンスキイは丁寧に挨拶した。
 ヘルマンは次の勝負まで待っていて、一枚の切り札を取ると、その上にゆうべ勝った金と、自分の持っていた四万七千ルーブルとを一緒に賭けた。
 シェカリンスキイは骨牌を配りはじめた。右にジャックの一が出て、左に七の切り札が出た。
 ヘルマンは七の切り札を見せた。
 一斉に感嘆の声が湧きあがった。シェカリンスキイは明らかに不愉快な顔をしたが、九万四千ルーブルの金額をかぞえて、ヘルマンの手に渡した。ヘルマンは出来るだけ冷静な態度で、その金をポケットに入れると、
前へ 次へ
全59ページ中56ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
プーシキン アレクサンドル・セルゲーヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング