すぐに家へ帰った。
次の日の晩もまた、ヘルマンは賭博台にあらわれた。人びとも彼の来るのを期待していたところであった。将軍や顧問官も実に非凡なヘルマンの賭けを見ようというので、自分たちのウイストの賭けをやめてしまった。青年士官らは長椅子を離れ、召使いたちまでがこの部屋へはいって来て、みなヘルマンのまわりに押し合っていた。勝負をしていたほかの連中も賭けをやめて、どうなることかと、もどかしそうに見物していた。
ヘルマンはテーブルの前に立って、相変わらず微笑《ほほえ》んではいるが蒼い顔をしているシェカリンスキイと、一騎打ちの勝負をする準備をした。新しい骨牌の封が切られた。シェカリンスキイは札を切った。ヘルマンは一枚の切り札を取ると、小切手の束でそれを掩《おお》った。二人はさながら決闘のような意気込みであった。深い沈黙が四方を圧した。
シェカリンスキイの骨牌を配り始める手はふるえていた。右に女王が出た。左に一の札が出た。
「一が勝った」と、ヘルマンは自分の札を見せながら叫んだ。
「あなたの女王が負けでございます」と、シェカリンスキイは慇懃に言った。
ヘルマンははっとした。一の札だと思って
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