と私だけですから」と叫んだ。ワトソン夫人はバーグレーヴ夫人が彼女の着物について言ったことは、何から何まで本当であると首肯《しゅこう》して、「私が手伝ってあの着物を縫って上げたのです」と言った。
 そうして、ワトソン夫人は町じゅうにそのことを言いひろめながら、バーグレーヴ夫人がヴィール夫人の亡霊を見たのは事実であると、証明したので、その夫のワトソンの紹介によって、二人の紳士がバーグレーヴ夫人の家へたずねて来て、彼女自身の口から亡霊の話を聞いて行った。
 この話がたちまち拡まると、あらゆる国の紳士、学者、分別のある人、無神論者などという人びとが彼女の門前に市《いち》をなすように押しかけて来たので、しまいには邪魔をされないように防禦するのが彼女の仕事になってしまった。というのは、かれらはたいてい幽霊の存在ということに非常な興味を持っていた上に、バーグレーヴ夫人が全然《ぜんぜん》鬱症になど罹《かか》っていないのを目撃し、また彼女がいつも愉快そうな顔をしているので、すべての人たちから好意をむけられ、かつ尊敬されているのを見聞して、大勢の見物人は彼女自身の口からその話を聞くことが出来れば、大いなる
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