熏嘯ソ塵土《ちりひぢ》となつて、唯、形もない、恐しい灰燼の一塊と、半ば爛壊《らんゑ》した腐骨の一堆とが残つた。
「お前の情人を見るがよい、ロミュアル卿。」決然として僧院長《アベ》は此悲しい残骸を指さしながら、叫んだ。「是でもお前は、お前の恋人と一しよに、リドオやフシナを散歩しようと云ふ気になるかの。」わしは、無限の破滅がわしにふりかゝつた様に、両手で顔を隠した。わしはわしの牧師館へ帰つた。クラリモンドの恋人ロミュアル卿も、今は長い間不思議な交際を続けてゐた、憐れな僧侶から離れてしまつたのである。が、唯一度、其次の夜にわしはクラリモンドに逢つた。彼女は、教会の玄関で始めてわしに逢つた時にさう云つたやうに「不仕合せな方ね、何をなすつた?」と云ふのである。「何故、あの愚かな牧師の云ふ事をおきゝなすつたの? 仕合せぢやなかつて? 私が貴方に何か悪い事をして? それだのに貴方は私の墓を発《あば》いて、私の何もないみじめさを人目にお曝しなすつたのね。私たちの、霊魂と肉体との交通はもう永久に破られてしまつたのよ。さやうなら。それでも貴方は屹度私をお惜みになるわ。」彼女は煙のやうに空中に消えた。そして
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