ハ《ルビイ》をたつた一滴……貴方はまだ私を愛してゐるのですから、私はまだ死なれません……あゝ可哀さうに、私は美しい血を、まつ赤な血を飲まなければならないのね、お休《やす》みなさい、私のたつた一の宝物、お眠みなさい、私の神、私の子供、私は貴方に害をしようと思つてはゐなくつてよ。私は唯、貴方の命から、私の命が永久に亡びてしまはない丈の物を頂くのだわ。私は貴方を愛してゐるのでせう、だから私は外に恋人を拵へて、其人の血管を吸ひ干す事にした方がいゝのだわ。けれど貴方を知つてから、私、外の男は皆厭になつてしまつたのですもの……まあ美しい腕ね、何と云ふ円いのだらう、何と云ふ白いのだらう、どうして私は此様な青い血管を傷ける事が出来るのだらう。」かう呟き乍ら、彼女はさめ/″\と涙を流した。其時わしは、彼女がわしの腕を執りながら、其上に落す涙を感じたのであつた。遂に彼女は意を決して、其留針で一寸わしを刺した。そして其処から滴る血を吸ひ始めた。彼女はほんの五六滴しか飲まなかつたが、わしの眼を醒ますのを怖れたので、丁寧に小さな布でわしの腕を括つてくれた。それから後で又傷を膏薬でこすつてくれたので、傷は直に癒つ
前へ 次へ
全68ページ中60ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ゴーチェ テオフィル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング