翌フ性格にはクレオパトラに似た何物かが潜んでゐるのである。わしはと云ふと又王子のやうな宮臣の一列を従へて、常に大国の四福音宣伝師か十二使徒の一人と一家ででもあるやうな、畏敬を以て迎へられてゐた。わしは大統領《ドオヂ》を通すのでさへ、道を譲らうとはしなかつた。魔王《サタン》が天国から堕落して以来、わしより傲慢不遜な人間が此世にゐたとは信じられぬ。わしは又、リドットにも行つて、地獄のものとしか思はれぬ運をさへ弄んだ。わしはあらゆる社会の最も善良な部分――没落した家の子供達とか女役者とか奸黠な悪人とか佞人《ねいじん》とか空威張《からゐばり》をする人間とか――を歓待した。そして此様な生活に沈湎しながらも、わしは常にクラリモンドを忘れなかつた。わしは実に狂気のやうに彼女を愛してゐたのである。一人のクラリモンドを持つのは、二十人の情婦を持つのにも均しい。否、あらゆる女を持つのにも均しい。彼女は其一身に、無数の容貌の変化と無数の清新な嬌艶とを蔵してゐる――真に彼女は女のカメレオンである。彼女はわしの愛を百倍にして返して呉れた。彼女の求めるのは唯、愛である――彼女自身によつて目醒まされた、清浄な青春の
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