B帳《とばり》が再び開いて、わしはクラリモンドの姿を見た。青ざめた経帷子《きやうかたびら》を青ざめた身に纏つて、頬に「死」の紫を印した前夜とは変つて、喜ばしげに活々して、緑がかつた董色の派出な旅行服の、金のレースで縁をとつたのを着て、両脇を綻ばせた所からは、繻子の袴《ジュボン》がのぞいてゐる。金髪の房々した捲毛を、いろいろな形に面白く撚《よ》つてある白い鳥の羽毛をつけた、黒い大きな羅紗の帽子の下から、こぼしてゐる彼女は、手に金色の呼笛のついた小さな鞭を持つて、軽くわしを叩きながら、かう叫んだ。「さあ、よく寝てゐる方や、これが貴方の御支度なの。私、貴方がもう起きて着物を着ていらつしやるかと思つたわ。早くお起きなさいよ。愚図々々しちやゐられないわ。」
 わしは直に寝床からとび出した。
「さあ、着物をきて頂戴。それから出かけませう。」彼女は一しよに持つて来た小さな荷包を指さしながら、「馬が待遠しがつて、戸口で轡《くつわ》を噛んでゐるわ。今時分はもう此処から三十哩も先きへ行つてゐる筈だつたのよ。」
 わしは急いで着物を着た。彼女はわしに着物を一つ/\渡してくれた。そしてわしがどうかして間違へる
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