トゐるのである。わしが、罪障の深い悦楽に酔つて、彼女の手にわしの体を任せると、彼女は又、其やさしい戯れと共に、楽しげに種々な物語をしてくれる。しかも最も驚くべき事は、わしが此様な不思議な出来事に際会しながら何等の驚異をも感じなかつたと云ふ事である。丁度夢の中では人がどの様な空想的な事件でも、単なる事実として受入れるやうに、わしにも、是等の事情は全く自然であるが如くに思はれたのである。
「貴方に会はないずつと前から私は貴方を愛してゐてよ。可愛いゝロミュアル、さうして方々探してあるいてゐたのだわ。貴方は私の愛だつたのよ。あの時あの教会で始めてお目にかゝつたでせう。私、直に『之があの人だ』つて云つたわ、それから、私の持つてゐた愛、私の今持つてゐる、私の是から先に持つと思ふ、すべての愛を籠めた眸《め》で見て上げたの――其|眼《め》で見ればどんな大僧正でも王様でも家来たちが皆見てゐる前で、私の足下に跪いてしまふのよ。けれど貴方は平気でいらしつたわね、私より神様の方がいゝつて。
「私、ほんたうに神様が憎くらしいわ、貴方はあの時も神様が好きだつたし、今でも私より好きなのね。
「あゝ、あゝ、私は不仕合
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