「輪廓の曲線に従はしめる――白鳥の首の如くになよやかな――其輪廓の持つてゐる豊麗な、優しさは「死」すらも奪ふ事が出来なかつたのである。彼女はさながら或巧妙な彫刻家が女王の墳墓の上に据ゑる為に造り上げた雪花石膏の像か、或は又恐らくは、眠つてゐる少女の上に声もない雪が一点の汚れもない掛衣《かけぎぬ》を織りでもしたかの如く思はれた。
 わしはもう、力めて祈祷の態度を支へてゐる事が出来なくなつた。閨房の空気はわしを酔はせ、半ば凋んだ薔薇の花の熱を病んだやうな匂はわしの頭脳に滲み込んだ。わしは休みなく彼方此方と歩きながら、歩を転ずる毎に、屍体をのせた寝床の前に佇んで、其透いて見えさうな経帷子の下に、横はつてゐる優しい屍《しかばね》の事を、何と云ふ事もなく想ひはじめた、わしの頭脳には、熱した空想が徂徠して来たのである。わしは彼女が恐らく、本当に死んだのではあるまいと思つた。唯わしを此城へ呼び寄せて、其恋を打明ける為に、わざと死を装つてゐるのだと思つた。そしてわしは、同時に彼女の足が、白い掛衣《かけぎぬ》の下で動いて、少しく捲いてある経帷子の長い真直な線を乱したとさへ思つた。
 それからわしはかう自
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