ながら、じいと堪《こら》えている。二老人も、沈痛な顔に、疲労の色をみせているが、二人は、最初から宿命とあきらめているので、気を失うことはない。
「どうして、僕等四人だけが、気が狂わないのだろうか」僕は、陳君に訊ねた。陳君の答えは、頗《すこぶ》る明快だ。
「君は、日本人だろう。日本人は、鉄のような心臓を持っているからだ」
「では、二老人は?」
「二老人は、ドイツの科学者だ。ドイツ人の沈着、剛毅《ごうき》な精神力が、この心理的な残虐に堪え得るだろうとおもう」
「なるほど……君は?」
「僕は、中国人だ。東洋人は、概して西洋人よりも心臓が強健だ。けれど、日本人にはかなわぬよ。しかし、僕は、安南人《あんなんじん》の巨《おお》きな心臓を移し植えられたので、そこで、君の鉄の心臓に負けないくらい強いのだ」しかし、いくら剛毅な精神の所有者でも、鉄の心臓の持主でも、この難局を打破ることは出来ないだろう。技術員たちより、一日か二日|生延《いきの》びるだろうが、やがて、同じ運命に陥るのはわかり切っている。
「どうだろう。この船から、海中へ飛込んで見たらどうだろう」と、陳君は奇抜なことを云う。
「すると、どうな
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