船首は、南々西に向っている。速力は十四、五|節《ノット》はあろう。北洋の三角波を、痛快に破って快走をつづけた。みると、置去りを食った海賊たちは、端艇のうえで、手を挙げ、足を踏み鳴らして去り往く本船に追い縋《すが》ってくる。
「おーい」「待ってくれい」死物狂いの叫びだ。僕は、いよいよ愉快になって応酬してやった。
「やーい。口惜《くや》しかったら、泳いで来い」
そのまに、彼我《ひが》の距離は、またたくまに遠ざかり、やがて、五艘の端艇《ボート》は、海霧の彼方に姿を没してしまった。船長ピコルはじめ、海賊たちは、どんなに口惜しがっていることだろう。地団太《じだんだ》踏んで、わめき立てているさまを想像すると、滑稽《こっけい》でもあった。二時間ほど、盲目滅法《めくらめっぽう》に快走をつづけたが、どうしたことか、左手に島影も発見できない。コンパスや海図と睨めっくらしてたしかに、北千島列島を左にして、南々西に針路を向けているのだから、次の無人島を左手に眺望できなければならぬ。海図では、アブオス島の南方には、マカルス島が連なり、それからオンネコタン、カアレンコタン、イカルマなどの諸島が、飛石のように列《
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