けてあげたいとおもっている」
「そうだな。何とか、この辺で、飛行機にでもめっからないかな。そうすると、飛行機の人に救助して貰うンだが……」
「そんな旨《うま》い具合にいくものか」
「でも、運命って奴《やつ》は、わからんよ。こうして漂流しているうちに、ひょっとして、この上空を飛行機が通らぬとも限らんよ」
「夢みたいな話さ」
「そうかなア」二人は疲労のためにうとうとした。
 と、意外意外、それから数時間ののち、その日の夕方、僕等の漂流する上空はるかに、壮快な飛行機のプロペラの音がきこえはじめたではないか。「あッ! 飛行機だ」
「そら見ろ。とうとうやって来たではないか。万歳! 万歳」
 僕は、雀躍《こおどり》して叫んだ。

     空《むな》しい救助

 僕等を救助した飛行機は、祖国日本の大型海軍機だった。
 遠洋における耐空試験をやっていて、奇妙な革船に乗って漂流する僕等を発見したわけだ。
 やさしい海軍の飛行将校たちは、僕等を救助し、飛行機に乗っけてくれたばかりでなく、いろいろ珍しい携帯糧食を、頒《わか》ち与えてくれた。固型|寿司《ずし》や、水玉のように、ごむ袋の中に入った羊羹《ようかん》は、とても美味《おい》しかったので、舌鼓を打つと、将校の一人は、
「小僧、そんなに旨《うま》いかい」顔を覗《のぞ》き込んだ。
「だって、随分お腹《なか》を空《す》かしているンですよ」
「だが、そんなに食べると、胃袋がびっくりするぜ」
「閣下」僕は、将校の一人に、こういうと、
「ハ……。閣下はありがたいな……」
 と、笑われた。海軍大尉は、閣下じゃなかった。
「では、訂正します。大尉殿。僕等を救けて下すってありがたいが、ついでに、もう二人救けて下さい」
「もう二人?」
「そうです。いまもいったとおり、魔の海の大渦巻に捲き込まれた、幽霊船にいる、二人の科学者を、一刻もはやく救助して下さい。この大型の飛行機は、まだ二人ぐらい収容できましょう」
「おう、その二人か。むろん救助したいが、その渦巻く大鳴門《おおなると》の方向が、小僧には、わかるかい」
「さア……夢中で脱れて来たので、方向は、わかりませんが、あまり遠くはないですよ」
「そうか、よし来た」元気一杯な操縦士の返事だ。
 長距離飛行に耐ゆる、わが優秀な海軍機は、僕等を乗せて、割合に低空を飛んだ。東に、西に、南に、北に……。海洋の魔所……大鳴門の所在を探し廻ったが、なかなか発見できない。
「何だ、小僧。大渦巻なンか、この近海にありゃしないじゃないか」
「でも、たしかに僕等が、そこを脱《ぬ》けて来たのです」
「夢でも見たんじゃないか」
「そんなことは、ありません」
「とにかく、もう少し探し廻ろう。暗くならないうちに探し当てなければ、救助が出来ないからなア」
 なおも、低空をつづけているうちに、何処《どこ》からか、ごうごうという物凄い音がきこえて来た。
「それ、閣下、大鳴門《おおなると》の音です」
 僕はまた、閣下といってしまった。
「ほいまた閣下かい。ハハハハ。おおなるほど、凄《すさ》まじい音だな。ああ、大渦巻だ」と、叫んで下界を見おろした。なるほど一海里平方もあろうという面積の海上が、大きく、烈しく、凄じく、渦を巻いている。外側はゆるやかに、中心になるにしたがって、急速度に、水がぐるぐる渦巻いている。
「おお、これは壮観」
「こんなところに、こんな難所があるとはおもわなかった」将校も、操縦の下士も、あまりの物凄さに、暫《しば》し見惚《みと》れた。
「はやく、博士たちを救って下さい」
「はやくしないと、死んでしまいます」
「よし来た」将校は、大きく肯《うなず》いて、もう一度渦巻の中心とおぼしい下界を見おろしたが、
「小僧! 幽霊船が、いやしないじゃないか」
 僕も、陳《チャン》君も、びっくりして下界を見おろすと、なるほど、大渦巻の中心に、捲き込まれて、独楽《こま》のようにぐるぐる廻っているはずの、死の船――幽霊船が、姿を見せないではないか。
「どうだ。小僧! やっぱり、おまえたちの夢だ」
「いいえ、たしかに、あの大渦巻に捲き込まれていたのです。僕等は、その幽霊船の甲板から、風船で脱れたのです。博士たちは、船に残っているンです。救《たす》けて下さい」陳君は、寂しげに云った。
「だって、幽霊船が、一向に見当らぬではないか。どうしたというンだ」
 いくら、低空を旋回してみても、渦を巻く海上に、幽霊船の姿を見出すことが出来なかった。
「ああ、やっぱり、ほんとうの幽霊船だったかもしれないね」
 とうとう、陳君は、こんなことを呟《つぶや》いた。
「じゃ、君は、あの怪老人を、あの偉大な生理学者を、亡霊だったというのかい」僕は、聞返すと、
「だって、妙じゃないか。幽霊船が、やっぱり、ほんとうの幽霊船なら、あの白衣《
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