自由自在につくられるのだから、ゲルケ博士のものとは、規模、構成において、おのずから異っている」
「どうして、氷の島が、暖かい海でも溶けないのでしょうか」
「氷上に動力所があるだろう。あの動力所から、鉄管で絶えず凍結剤を送っているから、よしんば島の表面が溶けても、急凍する海水が、新陳代謝するから大丈夫。それに、この氷は、化学的に急凍したものだから、大理石のように硬いのじゃ」
「人造島が、自由自在に、どこにでもつくられるようになると、飛行機は、安心して飛べますね」
「そうだ。戦争になると、人造島を各処《かくしょ》につくって、そこを艦隊や、航空隊の基地とし、不安になれば、忽《たちま》ち溶かしてしまうことが出来る」
「へえ、おどろいた。じゃ、人造島を発明した国は、戦争に絶対勝つというわけですね」
「人造島をつくったのは、わしだが、わしはまた、人造島に、ある種の人工霧を放射すると、忽ち溶けてしまうという、新しい兵器を発明したのだ。完成の一歩前だが、その研究をやっているのだよ」
老人は、梟《ふくろう》のような眼を輝かした。
「あなたは、科学者ですね。博士ですね。そして、この島の主権者ですか」
「主権者?……。なるほど、この島の創造主だから、主権者であっていいわけだ。ところが、わしは、哀れな奴隷なのじゃ」
「えッ!」
作戦?
「日本の少年よ。われわれは、人造島の耐熱試験をするために、大平洋の真ン中へやって来たが、試験は大成功。そこで数日ののちに、この島を元の水に還《かえ》して、本国へ引揚げるのだが、わしの科学の頭脳を、さんざん使った兵器会社の奴等は、不要になったわしを、この老ぼれ博士を、海洋に棄てて去るだろう」
「それじゃ、僕と同じ運命なのですか」
「そうじゃ、わしは、古ぼけた兵器製造機として、もう不要になったのじゃ。そこで、海へ棄てられてしまう。……わしは、たった一人で死にたくはないので、せめてもの道連れにとおもって、君の命乞いをしたのじゃ」
ああ、そうだったのか。僕は、それを知ると、この博士に怒りを感じた。
「僕は、あなたの道連れになるのは、お断りします」
僕は、断然拒絶した。老博士は、淋《さび》しく笑って、
「いや、ぜひこの老人と一緒に死んで貰《もら》いたい。……それとも、君は、あの麻袋に詰められて海ン中へ叩き込まれたいのかい」
「…………」
「わしと一緒に死んでくれるか、それとも、名もない雑役夫のために、海に叩き込まれるか。その二途《ふたみち》よりないのだが……」
少し考えていた僕は、
「あんな雑役夫に殺されるよりか……」
「おお、やっぱり、わしとこの島に残されるか」
「はい」
「うむ。それでこそ、義も情もある日本人じゃ。君は、わしの唯一の味方じゃ……では、わしの本心を明《あか》してあげよう」
「え! 本心ですって?」
「そうじゃ。わしは、いかにも古ぼけた兵器製造機じゃ。けれども、むざむざと、アメリカの兵器会社の奴等のために、海洋の真ン中に棄てられはしないぞ。君と協力して、彼等の暴力に抵抗するのじゃ」
「では、僕とともに、この島を脱《ぬ》け出そうと仰《おっ》しゃるのですか」
「脱出ではない。この島に住む狼共《おおかみども》に、戦いを挑むのじゃ。わしは、最初からその決意でいたが、君を味方に得て、いよいよ勝算が十分だ」
「でも、味方は、わずかに二人、敵は、それに十倍する人数、たいてい勝てますまい」
「ところが、わしは、科学者じゃ。科学の力は百人、千人の凡人の比ではない」
「作戦を洩《もら》してください」
「わしの作戦はこうじゃ。まず、この人造島の心臓ともいうべき、動力所を襲うて、これを占拠するのじゃ。われわれは、動力所に拠《よ》って、敵を迎える。動力が停《とま》って、凍結剤を海中の鉄管に送ることが出来なくなれば、この島は、忽ち溶けてしまうのだから、それを怖れて、敵も手出しは出来まい」
「でも、動力所を占拠して、人造島の心臓を抑えても、数台の飛行機が、彼等の手中にある以上、動力を停めて、人造島を溶かすと威《おど》かしても、彼等は、そのままに、飛行機に分乗して、危機を脱することが出来るじゃありませんか」
「なアに、その前に、ちゃんと飛行機を焼いて、敵の足を奪っておくのさ」
「えッ! 飛行機を焼いたら、僕達も、結局、人造島と運命を倶《とも》にするだけじゃありませんか」
「冒険に心配は禁物じゃ。科学のともなわぬ冒険は、もう古い。わしの人造島は、自力をもって、時速十三海里の航海が出来る。つまり、この人造島は、大洋の浮島であるとともに、一種の方船《はこぶね》なのさ。しかも、海中深く潜んでいる、すばらしい幾つかの推進機は、動力所の押ボタン一つで、猛然と回転してくれるのじゃ。動力所の心臓部を抑えながら、わしと君は数十人の敵を同伴し
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