、自分の頭《かしら》を撫でようとした、自分はその手をふり払い、何か言ッてやろうと思ッたが、思想がまとまらなかッた。
「お姉さま、あなたは……、あの、あの悲しくも何ともないの……皆《みんな》に別れるのが」
娘は眉を顰《ひそ》めて、不審そうに自分の貌を見ていたが,
「おやなぜ? 悲しくないことはありませんが,もウ父上《おとッさん》も帰らなければなりませんし……それにいろいろ……」言おうとして止め、少し考えていて,
「秀さん、私ももウ今夜ぎりで帰るのですから、仲よく遊びましょう。ね。さア。もウ泣くものではありません、さア泣き止《や》んで」
ああ何として泣かれよう,自分の耳には娘のいう一言一言が、小草《おぐさ》の上を柔らかに撫でて往く春風のごとく、聞ゆるものを,その優しい姿が前に坐ッて、その美しい目が自分を見て、そして自分を慰めているものを,ああ何として泣かれよう。五分も過《た》たぬ内、自分はもウ客座敷で、姉や娘と一しょになッて笑い興じて遊んでいた。
翌日の晩方自分は父ともろともに、叔父と娘とを舟へ乗り込むまで見送ッたが,別れの際《きわ》に娘は自分に細々《こまごま》と告別《いとまごい》を
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