るの」と言ッて自分の手を押さえて、「そんな悪戯《わるいたずら》をするものではありませんよ」
自分はこの時|癇癪《かんしゃく》を起して、小刀で机を削ッていたので……また削ろうとした。
「よすものですよ」と言ッて自分の泣き貌を見て、「おや、どうなすッたの。何を泣いていなさるの。え。え」
自分はこれを聞くと、わけも道理もなく悲しくなッて来て、たださめざめと泣き出した,すると娘は自分の肩へ手を掛けて、机に身を寄せかけて、清《すず》しい目を充分《いッぱい》に開いて、横から自分の貌を覗《のぞ》き込んで,
「なぜお泣きなさるの、何か悲しいことがあるの。え。お腹《なか》でも痛いの。え。え。気分でもわるいの」
自分は首《かぶり》をふッた。
「そうではないの。それではどうしなすッたの、泣くものではありませんよ。よ。よ」
自分は袖《そで》でいきなり泣き貌をこすッて、
「お姉さま……あなたは……あの明日《あした》もウ帰るんですか……どうしても」
娘はしけしけと自分の貌を見ていたが、物和《ものやわ》らかに、
「秀さん、それであなた泣いていたの」
首をかしげて問《たず》ねたが、自分が黙ッていたのを見て
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