風を欠くものであるが、娘はその風をも備えていた。清水の叔父は自分の父の弟で、祖母には第二番目の子だ、それゆえ娘は自分と同じように祖母の孫で、しかも最愛の孫であッたそうな。その夜一同客座敷へ集まッて四方山《よもやま》の話を始めたが、いずれも肉身《しんみ》の寄合いであるから誰に遠慮ということもなくその話と言ッては藩中のありさま、江戸の話、親類知己の身の上話、またはてんでんの小児《こども》の噂などで、さのみ面白い話でもないが、しかしその中には肉身《しんみ》の情と骨肉《ちすじ》の愛とが現われていて、歎息《たんそく》することもあれば、口を開いて大笑いをすることもあッて近ごろ珍らしい楽しみであッた。祖母はお雪やここへというような風に、目つきで娘を傍《そば》へ招いて、いろいろなことを尋ねたり語ッたりしていたが,その声の中には最愛《いとおし》可愛《かあい》という意味の声が絶えず響いていたように思われた,そして祖母は娘が少《ちい》さかッた時のように今もなお抱いたり、撫《な》でたり、さすッたりしたいという風で、始終娘の貌《かお》をにこにことさも楽しそうに見ていたが,娘も今は十八の立派な娘ゆえ、さすがにそう
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