もなりかねたか、ただ肩に手を掛けて,「ほんに立派な娘におなりだの」と言ッたのみであッた。自分は祖母が自分を愛するようにこの娘を愛している様子、と自分が祖母を慕うように娘が祖母を慕ッている様子、とを見て何となく心嬉《こころうれ》しく思ッた。
その翌日のことで自分は手習いから帰るや否や、「娘はどうしたかな?」と見ると姉の室で召し伴《つ》れて来た女中と姉と三人で何やら本を見ていたが、自分を見てにッこりしたので自分もその笑い貌に誘い出されて何ゆえともなくにっこりした。自分はこれから剣術の稽古があるから、すぐに稽古着を着て、稽古|袴《ばかま》をはいて、竹刀《しない》の先へ面小手《めんこて》を挾《はさ》んで、肩に担いで部屋を出たが,心で思ッた、この勇ましい姿、活溌《かっぱつ》といおうか雄壮といおうか、その活溌な雄壮な風と自分が稽古に精を出すのとを娘に見せてやろうと思ッた,それから武者修行に出る宮本|無三四《むさし》のことを思い出しながら、姉の部屋へはいッたが、この小さな無三四は狡猾《こうかつ》にも姉に向ッて、何食わぬ貌で,「叔父さんは?」と問《たず》ねた,姉は何とか対《こた》えていたが自分はそん
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