て見合いをさせたところ、当人同志の意にもかない、ことに婿になる人が大層叔父の気にかなッたとやらで、江戸へ帰ッたらば、さらに仕度をさせて、娘を嫁入らせるということを聞いた。
これを聞いた自分の驚きはどんなであッたろう、五分も経《た》たぬうち、自分はもウわが部屋で貌を両手へ埋めて、意気地《いくじ》もなく泣いていた。
その夜|臥《ね》てから奇妙な夢を見た、と見れば、自分は娘と二人でどこかの山路《やまじ》を、道を失ッて、迷ッている。すると突然傍の熊笹《くまざさ》の中から、立派な武士《さむらい》が現われて、物をも言わず、娘を引ッさらッて往こうとした。娘は叫ぶ、自分は夢中、刀へ手を掛ける、夢中で男へ切りつける、肩口へ極深《のぶか》に、彼奴《かやつ》倒れながら抜打ちに胴を……自分は四五寸切り込まれる、ばッたり倒れる、息は絶える,娘はべッたりそこへ坐ッて、自分の領《えり》をかかえ抱き起して一声自分の名を呼ぶ,はッと気がついて目を覚ます……覚めて見ると南柯《なんか》の夢……そッと目を開いて室を見廻わして、夢だなと確信はしたが,しかしその愛らしい優しい手が自分の領を抱えて、自身が血に汚《よご》れるのも
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