分は老婆に向い,
「おイ婆《ばあ》やア、誰か尋ねて来なかッたかい、おいらたちを」
「はアい、誰もござらッさらねエでしたよ」老婆は不審そうに答えた、「誰か尋ねさッしゃるかな、お坊様」
「蕨採りに来たのだが、はぐれてしまッたの、連れの者に。おイ、老爺《じい》や、探して来てくれないか、ちょッと往ッて」
 自分が唐突《だしぬけ》に前後不揃いの言葉で頼んだのを、娘が継ぎ足して、始終を話して、「お気の毒だが見て来て」と丁寧に頼んだ。
「それエ定めし心配していさッしゃろう、これエ爺様《とッさま》よう、ちょッくら往ッて見て来て上げさッせいな」
 最前から手を休めて、老父は不審そうに見ていたが、
「むむ見て来て上げべい。一ッ走り往ッて」
ト言ッたが、なかなかおちついたもので,それから悠然《ゆうぜん》と、ダロク張りの煙管《きせる》へ煙草を詰め込み、二三|吹《ぷく》というものは吸ッては吹き出し、吸ッては吹き出し、それからそろそろ立ち上ッて、どッかと上り鼻へ腰を掛けて、ゆッくりと草鞋をはき出した。はいてしまうと、丁寧に尻を端折ッて、さてそこでやッと自分に向ッて、
「坊様、どッちらの方でさアはぐれさしッただアの
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