方に運送するものらしい。日はもウ七ツ下り、斜めに水を照らし森を照らして、まことにいい景色である,がもう見る気はない,娘が貌《かお》に失望の意を現わして、物をも言わず、悄然《しょうぜん》として景色を眺めつめているのを見ては。
「おや、こんな大きな沼があるようでは……こちらでもなかッたと見えますねエ、しかたがない、後へ戻《もど》りましょう」
 娘は歎息《たんそく》したがどうも仕方がない、再び踵《きびす》を廻《めぐ》らして、林の中へはいり、およそ二町余も往ッたろうか、向うに小さな道があッて、その突当りに小さな白屋《くさのや》があッた。娘はこの家を見ると、少し歩くのを遅くして、考えている様子であッたが、
「秀さん、ちょうどいい。あすこの家へ往ッて頼んで、皆さんを尋ねてもらいましょう。それに皆さんも私たちを尋ねて、ひょッと彼家《あすこ》へでも尋ねて往ッて、もし私たちが来たら止めておくようにと頼んであるかも知れません,まァ彼家《あすこ》へ往ッて見ましょう」
 自分は異議なく同意して、いきなりその家へ飛び込んだ。家では老夫婦が糸を取り、草鞋《わらじ》を作ッていたが、われわれを見てびッくりした様子,自
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