と》、その蹴返《けかえ》す衣《きぬ》の褄《つま》、そのたおやかな姿、その美しい貌、そのやさしい声が、目に入り耳に聞えるので,――その人の傍にいるとどこかかすかに感じていたので,それゆえ一層楽しかッた。不意に自分は向うの薄暗い木の下に非常に生えているところを見つけた。嬉しさの余り、声を上げながら駆け寄ッて、手ばしこく採ろうとすると、娘も走《か》けて来て採ろうとするから、採ッてはいけないと娘をささえて、自分一人で採ろうとした,がいけなかッた,自分は今まで採り溜《た》めたのを、風呂敷へ入れて提《さ》げていたが、それを今すッかり忘れて、その風呂敷を手離して、娘と手柄を争ッたので、風呂敷の中から採ッたのが溢《こぼ》れて、あたりに散るという大失敗、あわてて拾い集めるうちに、娘は笑いながら、一ツも残さず採ッてしまッた。自分が見つけたのを横取りするのはひどい、返して下さい、と争ッて見たが、娘は情|強《こわ》く笑ッていて、返しそうな様子もないから、自分は口惜《くちお》しくなり、やッきとなり、目を皿のようにして、たくさんあるところを、と、見廻わした、運よくまた見つけた、向うの叢蔭《むらかげ》に、が運わるく
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