娘も見つけた。や負けた、娘が先へ走り寄ッた。唐突《だしぬけ》に娘があれエと叫んだ、自分は思わずびッくりした,見れば、もウ自分の傍にいた、真青になッて、胸を波立たせて、向うの叢《くさむら》を一心に見て。自分は娘の見ているところ、その叢を見ると、草がざわざわと波立ッて、大きな青大将がのそのそと這《は》ッて往ッた,しばらくして娘はほッと溜息を吐《つ》いて、ああ怖かッた、とにッこりしてそしてあたりを見廻わして、またおやと言ッた。先の驚きがまだ貌から消えぬうちに、新しい驚きがその心を騒がしたので、以心伝心娘の驚きがすぐ自分の胸にも移ッた。見ればあたりに誰もいない。母を呼びまた姉を呼んで見たが、答うる者は木精《こだま》の響き、梢の鳥、ただ寂然《しん》として音もしない。
「どこへ皆さんは往きましたろう」心配そうな声で、「ついうッかりしていて」
「そうですねエ……」
「立ッていても仕方がありませんから、まア向うの方を尋ねて見ましょう」
蕨はもウそッちのけ,自分は娘の先へ立ッて駆けながら、幾たびも人を呼んで見たが、何の答えもなかッた。
「こちらの方ではなかッたかしらん」娘は少し考えていて、「あッちかも
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