検見《けんみ》の伴をして、村々を廻わッて、ある村で休んだ時、脚半の紐《ひも》を締め直すとて、馬鹿なことさ、縁台の足ぐるみその紐を結びつけて、そして知らずにすましきッて、茶を飲んでいたが,そのうち上役の者が、いざ、お立ちとなッたので、勘左衛門も急いで立ち上ッて足を挙げると、いけない,挙げる拍子に縁台が傾いたので、盆を転覆《ひッくりか》えして茶碗《ちゃわん》を破《こわ》したが、いまだにそれが一ツ話でと、自身を物語ッたのを、われわれ一同話を止めて、おかしな話と聞いていたが、実にこの男は滑稽家でもあッたが、またそそくさした男でもあッた。
 さてしばらくここに休んでいたが、自分たちの組が大人を催促して、山奉行に別れて、再び蕨採りに出かけた。今度は出かけるや否や、すぐちりぢりになッて採り始めた。自分は娘の傍を離れず、娘が採るたびに自分の採ッたのと比較して見て、負けまいと思ッて励んでいたが、この時はもウ蕨に気を採られて、娘のことは思ッてはいなかッた,ト言ッて忘れてもいなかッたので,娘の傍にいるということは、闇《あん》に知ッていたので、いわゆる虫が知ッていたので,――その飄《ひるが》えるふりの袂《たも
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