《そうかい》が風に波立ッているところで、鳴子《なるこ》を馬鹿にした群雀《むらすずめ》が案山子《かかし》の周囲《まわり》を飛び廻ッて、辛苦の粒々を掘《ほじ》っている,遠くには森がちらほら散ッて見えるが、その蔭から農家の屋根が静かに野良を眺《なが》めている,蛇《へび》のようなる畑中の小径《こみち》、里人の往来、小車《おぐるま》のつづくの、田草を採る村の娘、稗《ひえ》を蒔《ま》く男、釣《つり》をする老翁、犬を打つ童《わらべ》、左に流れる刀根川の水、前に聳《そび》える筑波山《つくばやま》、北に盆石のごとく見える妙義山、隣に重なッて見える榛名《はるな》、日光、これらはすべて画中の景色だ。鄙《いなか》の珍らしい娘の目にはさすがにこの景色が面白いと見えて、たびたびああいい景色と賞めた。
 途中では出遇ッた人もまれであッた。初め出遇ッたのが百姓で、重そうな荷をえッちらおッちら背負ッていたが、わざわざ頬冠《ほおかむ》りを取って会釈して往き過ぎた。次に出遇ッたのが村の娘で、土堤の桑の葉を摘みに来たのか、桑の葉の充満《つまッ》た目籠《めかご》をてんでん小脇《こわき》に抱えていたが、われわれを見るとこそこそ土
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