ウうッとりとして、嬉しさの余り手を叩《たた》きたいほどであッた。
「お姉さま、折方を教えて下さいな」
それから自分は折方を習ッて、二三度試して見たが出来なかッたので、娘は「ほんとうにこの子は不器用な人だ」と笑いながら、いやというほど自分の手を打ッた,痛かッた、痛さが手の筋へ染《し》み渡ッた,が痛さと一しょに嬉しさも身に染み渡ッた,嬉しいから痛いのか、痛いから嬉しいのか? 恐らく痛いから嬉しいので……まアどうでもいいとして、痛さが消えぬように打たれたところをそっと撫でた。
ここへ姉がはいッて来て、
「秀さん何をしておいでだ」
娘はにっこりして姉に向い、
「どうもこの子は不器用でいけません」
「こんなものは出来なくッてもいいや」
「出来なくッてよければ、なぜ教えてくれと言いました? わがままッ子め!」
娘は口元で笑いながら額越しに睨《にら》む真似をした,自分はわがまま子と言われるのよりは、何とかほかの名を附けてもらいたかッた。
その夜のことで、まだ暮れてから間もないころ自分は何の気もなしに、祖母の室へ遊びに往ッた、すると祖母を始めとして両親もおれば叔父も娘もいて何か話していたが,
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