いらッしゃい」
「いい物?」いい物とは嬉しい、と思いながら、嬉しさにほとんど夢中となり、後に続いて座敷へはいると紙へくるんだ物をくれた,開けて見るとあたり前の菓子が嬉しい人から貰《もら》ッた物、馬鹿なことさ、何となく尊く思われた,破《こわ》さないように、丁寧に、そっと撫でるように紙へくるんで袂《たもと》へしまうのを、娘はじッと見ていたがにッこりして,
「秀さんいい物を拵《こし》らえて上げましょう」
「どうぞ」
娘は幾枚となく半紙をとり出して、
「そらようございますか、これが何になるとお思いなさる,これがね」ゆッたりした調子で話し始めた。「――これは、そらね、これをこう折ッて、ここをこうすると、そうら、一つの鶴《つる》が出来ますよ、そら今出来ますよ、そうら出来た」
娘は鶴を折るとそれから舟、香箱、菊皿《きくざら》、三方《さんぼう》などを折ッてくれた。自分は娘が下を向いて折物に気を取られている間、その雪のような白い頸《えり》、その艶々《つやつや》とした緑の黒髪、その細い、愛らしい、奇麗な指、その美しい花のような姿に見とれて、その袖のうつり香に撲《う》たれて、何もかも忘れてしまい、ただも
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