「コロ」を押えながら蝶を逃がした。それから「コロ」を抱きあげてそしてやさしい手でくるくると「コロ」の頭《かしら》を撫でまわした,「コロ」は叱られたと思ッたか、目を閉じ、身を縮め、首をすぼめて小さくなッたその風の可愛らしさ,娘はその身の貌《かお》を「コロ」の貌から二三寸離して、しけしけと見ていたが、その清《すず》しい目の中にはどんなに優しい情が籠《こも》ッていたろう。「もう虫なんかを捕るのではないよ」と言ッて、その美しい薔薇色《ばらいろ》の頬《ほお》を猫の額へ押し当て、真珠のような美しい歯を現わしてゆッたりと微笑《わら》ッたが、そのにっこりした風はどんなにあどけなく、どんなに可愛らしい風であッたろう! 自分は猫を羨《うらや》ましく思ッて余念なく見とれていた。娘は頬の辺にまだ微笑《わらい》のほのめいている貌をちょいとふり上げて自分の貌を見たが、その笑い貌の中には、「なぜそんなに人の貌を見て」と尋ねるような風があッたので、あるいはなかッたかも知れぬが、自分はあッたように思ッたので、はッと貌を赤らめて、あわてて裏庭へ逃げ出してしまッた,が恥かしいような、嬉しいような、妙な感情《かんじ》が心に起
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