》していて。赤いのはなぜおきらい?」
「なぜッて? 赤いなア平家の旗色で、白いなア源氏ですもの,源氏の方が強いから、だから……」
 愚にも附かぬことを言いながら、内庭と外庭の間の枝折戸《しおりど》の辺まで近づいた。と見ると花壇に五六本の白牡丹《はくぼたん》が今を盛りと咲いていた,その花の下に飼猫の「コロ」が朝日を一杯背中に受けて、つくねんとうずくまッていた「日向《ひなた》ぼこりをしているのか、居睡りをしているのか?「牡丹花下の睡猫《すいみょう》は心|舞蝶《ぶちょう》にあり」という油断のならぬ猫の空睡《そらね》,ここへ花の露を慕ッて翩々《へんぺん》と蝶が飛んで来たが、やがて翼《はがい》を花に休めて、露に心を奪われて余念もない様子であッた。油断を見すました大敵、しかし憎げのないひょうきん者め、前足を縮めて身構えをしたが、そら、飛びかかッた,蝶は飛び退いたが、あわてて、狼狽《まごつい》て、地下《じびた》をひらひらと飛び廻わッていた,が、あわや「コロ」の爪にかかりそうになッた。
「あらまア! あんないたずらを」と娘は走《は》せよッて、
「およし可哀そうに」
 娘はしなやかに身を屈《かが》めて、
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