つつかもの》、田舎者と笑われぬようによく気をつけるがよいと言われた。それからまたそのお雪という娘がどんなに心立てがやさしく、気立てがすなおで、どんなに姿が風流《みやび》で眉目容《みめかたち》が美しかろうと賞《ほ》めちぎッて話された。幼少のうちは何事も物珍らしく思われるが、ことに草深い田舎に住んでいると、見る物も聞く物も少ないゆえちょっとしたことも大層面白く思われるもので,母があのように賞めちぎる娘、たおやかな江戸の人、その人と話をする時には言葉使いに気をつけねばならぬという、その大した江戸の人はまアどんな人なのであろうか? 早く遇《あ》いたいもの、見たいもの、定めし面白い話もあろう、と自分の小さな胸の中にまず物珍らしい心が起ッて、毎日このことをのみ姉と言いかわして、珍客の来る日を待ッていた。そのうちにいよいよ前の日となると数ならぬ下女はしたまでが、「江戸のお客さま、お客さま」と何となく浮き立ッていた,まして祖母や姉なぞは、まして自分は一日を千秋と思ッていた。
当日は自分は手習いが済むと八ツ半から鎗《やり》の稽古《けいこ》に往《い》ッたが、妙なもので、気も魂も弓には入らずただ心の中で,
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